映画と本の感想ブログ「映画の本だな」

いつかディズニー映画を英語で観るために頑張るブログ。

映画「テーラー 人生の仕立て屋」

映画「テーラー 人生の仕立て屋」

 

映画"Tailor"

2021

ソニア・リザ・ケンターマン 監督

 

 ハリウッド映画は確かに面白いし、多くの人に好まれます。

わかりやすく、腑に落ちるストーリーに、緩急のついた展開、巧みな演出に、

効果的なBGM――どこをとっても、一流のエンターテイメントです。

 でも、今回ご紹介する映画は、ギリシャ出身の監督がはじめて撮った長編映画

ハリウッド的な華やかさとは、無縁の映画です。

 これは、人生を大逆転させる、きらびやかなサクセス・ストーリーではなく、

一人の人間の人生の転機を、静かに追いかける叙情的な作品なのです。

 

 主人公はアテネで仕立て屋を営む男:ニコス。

16歳の頃から、父の店で仕立ての技を学んだニコスは、

閑古鳥の鳴く店で、来ない客を待つ日々を送っていました。

 銀行からの差し押さえ、父親の入院、問題が山積みの中、

ニコスは廃材から屋台を作り出し、自分の手で街中へひいていき、

街角で紳士用スーツを売りに出すことにします。

 しかし高級な紳士用スーツの需要は見つからず、

ひょんなところから声がかかったウエディングドレスのオーダーを

つい引き受けてしまう……。

 

 テーラー(紳士服の仕立て屋)って、懐かしい響きです。

子どもの頃、通学路に「昭和のオリンピックを経験していそうな古い仕立て屋」が

ありまして、すすけたウィンドウの中に紳士用ジャケットが飾られていました。

それもかなり年代物で、いつ通っても人気はなく、

店内の灯りも暗くて、静かな雰囲気でした。

 今時、オーダーメイドのスーツの需要は、限られたものでしょう。

金も無ければ、見栄を張ることもない現代日本のスーツ事情は、

2010年の経済危機以降も、財政難に悩まされてきたギリシャでも

同様のことでしょう。

映画内で道行く人たちは、一様にラフなTシャツにサンダル姿でした。

 

 最終的にニコスは、父の代からの仕事を畳み、

ウエディングドレスの移動販売をする道を選びます。

 家業、家族、かつての仕事、かつての顧客、思い入れのある店、街、土地。

 そして、恋と愛。

 それらから離れて、新しい仕事に臨む彼の姿は、

一つの時代の終わりと、これからを生きるための道しるべを示しています。

 

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映画「穴/HOLES」

映画「穴/HOLES」

 

”スタンリーは、きらめく夜空を見上げながら、思った。

 ここよりほかにいたいところなんてない。”

書籍「穴」

ルイス・サッカー 著

幸田敦子 訳

 

映画"Holes"

2003

アンドリュー・デイヴィス 監督

 

 本を読んで「これ、面白い!」と思った時、

心の中の本棚に、その本をしまうことにしています。

本棚はカテゴライズされていますが、ジャンルでまとめているわけではありません。

カテゴリーは「人生の折々に読み返したくなる本」「もう内容は空で覚えて

いるけど、青春の思い出の本」「あわよくば友人・知人に普及させたい本」――

――そして、「子どもに贈りたい本」

 コザクラにもし子どもがいたとしたら、

子ども部屋の本棚に置いておきたい本が、いくつかあります。

これはその内の1冊です。

 小・中学校の図書室で見かけたという方も多いのではないでしょうか?

ルイス・サッカーのベストセラー:「穴(あな)」

1998年に出版され、同年に全米図書賞を、

翌年にニューベリー賞(アメリカの児童文学賞)を受賞しました。

 

 あらすじを説明するにあたって、ニュアンスの近い作品名をあげるとしたら

ジョジョの奇妙な冒険」がそれにあたると思います。

いや、本当に。

これは、世代を超えた呪いのお話なんですよ。

 主人公:スタンリー・イェルナッツ四世は、

ひいひいじいさんの呪いによって、無実の罪で更生施設へ送られます。

しかしそこは更生施設とは名ばかりで、施設一帯の地主であり、

その地に大昔の大泥棒のお宝が埋まっている、と信じている女所長が

権力を振りかざしていました。

送られてきた少年たちを労働力にして、そこら中を穴だらけにしてみるも

出てくるのは財宝ではなく、ガラガラヘビ、サソリ、そして黄斑トカゲ。

噛まれれば明日の命の保証がない黄斑トカゲにびくつきながら、

少年たちは乾いた大地に穴を掘り続けます。

太っちょで穴掘りが苦手なスタンリーは、いじめられ、自分の不運を呪います。

 しかし更生施設にいた、小柄な少年:ゼロと出会うことで、

スタンリーは冒険に出ることになり、最後にはご褒美――お宝を手に入れます。

実はゼロは、スタンリーのひいひいじいさんに呪いをかけた老婆の子孫。

5代にわたる呪いの連鎖を、知らず知らずにスタンリーは打ち破ったのでした。

 

 引用文は、冒険の果てに何とか一命を取り留めたものの、

行く先を決めあぐねているスタンリーの独白からです。

何か不運なことがある度に、「あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒の

ひいひいじいさんのせいだぞう」と呟いていたスタンリーは、

ここではじめて自らの運命を祝福します。

(一族の呪いは、ひひじいさんが豚を盗んだことに端を発します)

 無実なのに有罪とされたことも、更生施設でいじめられたことも、

穴を掘って手の皮がむけたことも、更生施設を脱走して荒野をさ迷ったことも、

死にかけたゼロを背負って山を登ったことも、すべて受け入れます。

自分の運命を肯定した時、スタンリーの心の中に幸せな気持ちが広がります。

そして、次の冒険に挑戦する勇気も湧き上がるのです。

 

 映画は脚色を加えてあるとしても、基本的には原作に忠実に作られています。

まぁ、スタンリーは太っちょではなく、ひょろひょろの頼りなさそうな感じの

男の子がキャスティングされていますが、そこは目をつぶりましょう。

原作では穴を掘るという、一見すると無意味な肉体労働のおかげで

スタンリーは体力がつき、ゼロを背負って山登りができるほど

たくましく成長した、という仕組みなのですが、

映画の中でスタンリーを劇的に肉体改造するわけにはいきませんからね。

 ともあれ、初見の方は原作本であれ映画であれ、

途中で「ん?これは何の話?どこに繋がっているの?」と思うシーンが

あるかと思います。

最後にはすべてのピースが気持ちよくはまり、

文句なしの大団円を迎えますので、ご心配なく!

見事な伏線回収のお手本としても、どうぞお楽しみくださいませ。

 

【映画のキーワード】

#冒険 #ファミリー #ディズニー

 

 

 

映画「ゆれる人魚」

映画「ゆれる人魚

 

映画"Córki dancingu"

2015

アグニェシュカ・スモチンスカ 監督

 

 生涯はじめての人魚は「リトル・マーメイド」のアリエルなんですが、

生涯はじめての人魚が登場する漫画は「人魚の森」なコザクラです。

そう、高橋留美子の人魚シリーズのうちの1作です。

 多感な小学校中学年に「人魚」のタイトルにひかれてページをめくった

小娘の気持ちがお分かりでしょうか?

その後十年以上、トラウマとしてひきずることと相成りました。

 実は、三十を超えた今でも、きちんと読めていない漫画作品なのです。

 

 この映画のあらすじを読んだ時に、「人魚の森」に通ずる

おどろおどろしさを感じ取り、視聴を諦めていました。

……とは言え、ずーっと気になっていたので、

今回、勇気を出して鑑賞することにしました。

 グロシーンはあるものの、想像していたよりも観やすく、

これならもっと早く観ておけばよかったな、というのが鑑賞後の感想です。

全編を通して、登場人物が心情を歌って踊って表現するミュージカル映画でもあり、

同時にすごく……ロックンロールです……。

皆まで言いません。

これはぜひ映画本編で味わってほしい。

 これはポーランドで制作されたポーランド映画です。

アメリカ映画以外で、この手のミュージカル映画と言えば、

インド映画くらいしか思いつかないのですが、

ポーランドがつくるとこうなるのね!という驚きがあり、新鮮でした。

すごく良いです。 もっと観たい!

 

 人魚を怪物:モンスターとしてとらえた点において、

映画「ゆれる人魚」と漫画「人魚の森」は共通しています。

「ええ? 怖い!」と思う一方で、昔からの伝承にある人魚は、

こういう化け物として扱われてきたという事実があります。

かわいいだけの人魚や、人間に友好的な人魚は、

アンデルセン以降、付加されてきたイメージなんですよね。

 この映画の魅力は、人魚を恐怖対象にした、

ただのホラー映画にしなかった点にあります。

人魚を「人間を襲うモンスター」と位置づけながらも、

アンデルセン童話を思わせるような純真さを兼ね備えた存在として、

人魚の恋と愛を描いています。

 

 ホラー好き、ファンタジー好き、恋愛好きにおすすめしたい1作です。

 

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映画「愛しのアクアマリン」

Can we wish for you to stay here forever?

映画「愛しのアクアマリン」

 

”おともだちとわかれなきゃならないなんて、むねがしめつけられるよう。

 あの子がいないんだもの、うちへかえっても、きっとさびしいだろうな。”

書籍「3人のちいさな人魚」

アレイン・トレ 著

麻生九美 訳

 

映画"Aquamarine"

2006

エリザベス・アレン 監督

 

 一言でまとめるなら、「アメリカのティーンの女の子向け小説の映画版」

といったところです。

例を挙げるなら、「トラベリング・パンツ」に近いイメージ。

 それを聞いて回れ右しようと思ったそこのあなた!

多分、あなたが思うよりかは、この映画は面白いと思いますよ。

だまされたと思って、一度観てほしい、そんな映画です。

 

~あらすじ~

 

 海水浴場を有する浜辺の町に、今年も夏がやってきた!

 クレアとヘイリーはビーチパラソルの影で、

雑誌を開いては(使う当てのない)モテテクを覚え、

イケメンのライフガード(緊急対処員)を覗き見する夏を送っていた。

冴えない女子としてバカにされても平気。

だって二人は親友だもの!!

 ところがヘイリーがオーストラリアに引っ越すことになり、

二人の夏はあと五日で終了……。

このまま、二人の友情も終了してしまうの?

 ――なーんてセンチメンタルに浸っていたら、

嵐に紛れて未知の生物が現れた!?

え? 人魚!?

 親の決めた結婚を嫌がり、「愛」を求めて陸に上がった人魚のアクアマリン。

彼女の願いを叶えて、お礼に自分たちの願い事――引っ越し中止――を

叶えてもらうため、二人はイケメンを彼女に譲ることにした。

 目指せ! 恋愛成就!!

人魚の恋はいつも悲恋だなんて、もう二度と私達が言わせないわよ!

 

~あらすじ・終了~

 

 ……とまぁ、よくもここまで女の子の夢に忠実に作ってくれたわね、

と思わず拍手したくなるくらいの清々しさです。

ハーレクイン一歩手前の、きちんと酸っぱさをミックスしてある雰囲気。

青春だなぁ~とニマニマしちゃいます。

ハッピーエンドとわかっているけど、トラブルが起きれば

「あぁーーーー!!!」と言わされてしまうこの感じ……

……嫌いじゃないぜ。

 恋愛をターゲットに据えながら、実は女の子どうしの友情に重きが置かれている、

というのも個人的には萌えます。

恋の前では親友も親の敵になる、とは言います(??)が、

十代前半の女子にとっては、一緒に笑って泣いて恋バナしてくれる友達の方が

大事ってもんです。

 私らの友情の前で、そこらの男がなんぼのもんじゃい。

ガールズ・パワー、甘く見んなよ。

 

 引用した書籍について。

 映画とは関係のない絵本ですが、

人魚と人間、女の子どうしの友情ということで、取り上げさせていただきました。

挿し絵がかわいいんですよ。

著者の情報が見当たらないのですが、どうやらフランスの方らしい。

 3匹の人魚が、難破した船の乗客だった一人の女の子を救い、

彼女を助け、一緒に過ごし、陸に送り届けて、最後は別れる……というお話です。

引用部分は、ラストで女の子と別れた後の、人魚たちの心情を表した文章です。

でも、悲しいラストではなく、

次のページで人魚たちは喜びを見つけ、ハッピーエンドで終わります。

小さいお子さんの読み聞かせでも、安心してお読みいただけます。

 ただ、女の子と人魚たちは、もう会うことはなかったんじゃないかな、と思います。

映画では、アクアマリンと二人の少女がまた会う約束をして別れます。

言葉通り、次の夏に三人が会えたらいいな、と思います。

でも、もし会えなかったとしても、この夏の思い出は彼女たちにとって、

忘れられない奇跡のような宝物であり続けることは、間違いないでしょう。

 寂しいのは自分だけじゃない。

人魚の彼女もきっと、自分と同じくらい別れを惜しんでくれていた。

それを信じて、彼女たちはそれぞれの道を歩んでいくのでしょう。

もちろん、二本の足で。 ね!

 

【映画のキーワード】

#ファンタジー #ラブ・コメディー #ティーンエイジャー

 

 

 

 

 

 

映画「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」

From the shell A song of the sea Neither quiet nor calm Searching for love again

映画「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」

 

”でも、ときどきアザラシ女房は寂しそうにみえた。

 心に重くのしかかるものがあるようだった。

 夢見るような表情をよく浮かべて、海を何時間も見つめていたものだ。

 子どもたちには、島の誰も聞いたことのない、不思議な歌をたくさん教えた。”

書籍「人魚と結婚した男 オークニー諸島民話集」

トム・ミュア 著

東浦義男・三村美智子 訳

 

映画"Song of the Sea"

2014

トム・ムーア 監督

 

 ――歌が、すっごくいいんですよ、この映画は。

タイトルに入っていますが、「海の歌」――英語版なら"Song Of The Sea"

アイルランド語版なら"Amhran Na Farraige"――これが劇中歌に使われてまして、

主人公:ベンの母親役の声優を務めたリサ・ハニガンが歌っています。

 オリジナル・サウンドトラックが、Amazonから有料ダウンロードできます。

……が、1曲丸々視聴できました。

どういうことなの…………。

 Amazonの視聴って、昔は途中までで切れたと思うんですけど、

いつの間にか1曲聞けるようになっていたの?

コザクラがこの曲をダウンロードした数年前とは、世の中が変わっている……。

 

 浦島太郎の気分は横に置いておいて……、この映画にはセルキーが登場します。

 引用した書籍では、「アザラシ人間(セルキー・フォーク)」の名で

紹介されるこの生き物は、スコットランド周辺の民話に度々登場しており、

アザラシの皮を脱ぎ着することで、水中と陸の上、

二つの世界を行き来する存在として、物語中で活躍しています。

普段はアザラシの姿で過ごす彼らは、時折皮を脱いで陸に上がり、

人間の姿で踊り、さらには人間と恋に落ちます。

セルキーは男女ともに美しい姿をしているとされ、

恋を告げられた人間は、彼らの愛を受け入れますが、

住む世界が異なるため、長く一緒にいることはできません。

 伝承はいくつかありますが、よく見られる型の一つにあるのが、

人間の男が皮を隠してセルキーの退路を断ち、嫁に迎え、子どもをもうけるも、

数年の後にセルキーは皮を見つけて海へと帰ってしまう、というもの。

皆さんご存じの日本の民話「羽衣伝説」の類型とされ、

異類婚姻譚の常として、セルキーの物語は、悲恋に終わる恋物語が多いです。

 そしてこの映画でも、登場するセルキーの一人は、

愛する人との別れを避けることはできませんでした。

 

 映画では、ベンの妹:シアーシャの毛皮は隠されていました。

彼女がセルキーであった母親の血を濃く継いでおり、

母親同様にセルキーとして海に生きる道があることを知っていた父親が、

娘を海へはやるまい、と鍵付きの箱に入れて、

クローゼットの奥にしまっていたのです。

 一方、お兄ちゃんのベンは、妹の誕生とともに、

大好きだったお母さんがいなくなってしまったこともあり、

シアーシャには意地悪をしたり、きつくあたったりします。

それでも冒険の果てでは、自分の今までの振る舞いを振り返り、

シアーシャと共に最後を迎える覚悟を決めます。

そしてラストでは、人間の世界に残ったシアーシャと

兄妹らしく仲良くしているシーンが描かれ、物語は幕を閉じます。

 セルキーならば避けては通れなかった「人間世界との別れ」も、

半分人間であるシアーシャならば、明るい結末へと導けます。

 

 しかし、人間の姿を選んだシアーシャではありますが、

セルキーの姿は本当にかわいくて、もうセルキーにはならないのかと思うと

そこだけちょっぴり残念に思います。

 真っ白なアザラシ姿もかわいいのですが、白いアザラシの毛皮を被った姿も、

身もだえするようなかわいさがあって、悶絶ものなのです。

ちょっとひょうきんな格好にみえなくもないですが、そこはそれ、

かわいい女の子が着ていると、「あらかわいい」となります。

 かわいい映像と美しい歌声に癒やされたい時に、おすすめの映画です。

 

【映画のキーワード】

#アニメ #ファミリー #妖精

 

 

 

映画「ライトハウス」

Why'd ya spill yer beans.

映画「ライトハウス

 

書籍「世界の民話館 人魚の本」

ルース・マニング=サンダーズ 著

西本鶏介 訳

 

映画"The Lighthouse"

2019年

ロバート・エガース 監督

 

 警告!

 予備知識無しにこの映画を観ることは、おすすめしません!

(タネ明かし無しで謎だけ提供されるので、頭がこんがらがります)

 

 警告その2!

 エロ・グロあります! 無理な方は視聴をお控えくださいませ!

(コザクラ的にはアウト寄りでした。観ていて気持ち悪かった……)

 

 ネタバレ厳禁な方も、この映画だけはネタバレしてもらってから

観に行った方がいいと思います。

それなりに知識を詰め込んでいかないと、意味不明なまま時間が過ぎて

ラストも「は??」となってエンディングを迎えてしまい、

釈然としない思いを抱えて席を立つことになります。

というか、なりました。 コザクラは。

 あまりにちんぷんかんぷんだったので、

見終わってすぐに考察サイトを探したら、

公式が「徹底解析ページ」を作っていました!

これを読んでから映画を観ればよかったな、とちょっと後悔。

このページは、ストーリーのネタバレが目的ではなく、

シーンを読み解く手助けとなる情報が集められています。

 映画を視聴予定の方は、ぜひ下記リンクから情報を仕入れていってください。

 すでに視聴済みだが、訳わかんなかったよ、という方もこちらからどうぞ。

 

徹底解析ページ | 映画『ライトハウス』公式サイト

 

 さて、謎が謎呼ぶというか、謎しかない本作ですが、

その中でも人魚の謎は、比較的わかりやすい部類かと思います。

上述の「徹底解析ページ」でも語られているように、

人魚は性的衝動のメタファーとして用いられています。

新人の灯台守:イーフレイム・ウィンズローが人魚と交わる夢想をしたり、

人魚の像を片手に自慰したりするシーンからも、

人魚が欲望のはけ口として機能していることがわかります。

 物語の舞台となる島には、灯台と関連施設の他は何もありません。

何の娯楽もない孤島で、

先輩の灯台守:トーマス・ウェイクにしごかれて、働くだけの日々。

2人の男にとって、4週間は長く、精神は徐々に鬱屈していきます。

人魚に夢を見て、肉体を慰めるイーフレイムの姿は、どこか病的です。

 

 引用書籍は、世界的に著名な民話採集者ルース・マニング=サンダーズの

1冊で、各国に伝わる人魚の民話を収めた本です。

 その中の「大海原の王国」は、所謂「浦島太郎伝説」系の話で、

嵐にあって遭難した船乗りが、海の底の王国へ行き、人魚の妻をめとり、

幸せに暮らすも、好奇心から言いつけを破り、人間世界へ戻される、というもの。

人魚の妻が「さわっちゃいけないの!」と言ったにも関わらず、

「どうなるかみてやろう!」と、隠された像に触れた船乗りは、

凄い勢いで海を抜け、元いた自分の国の海岸まで吹き飛ばされました。

 両親は船乗りの帰りを喜びますが、おずおずと尋ねます。

「それで、また、ほかの船に乗るのかい」

すると船乗りは言いました。

「ほかの船に! とんでもない! 海はもうこりごりだよ!」

 船乗りは、大海原の王国で盛大なもてなしを受けました。

人魚の妻は、結婚する前も後も、船乗りに不利益になることをしていません。

 それなのに、船乗りは意図しない陸への帰還の後、

大海原の王国へ戻ろうとはしませんでした。

村の娘に恋をして、新しい妻と幸せに暮らしたのです。

 

 薄情な男です。

所詮、人魚はヒレのついた女。

一時はかわいく思えても、陸の女と同じ目で見られなかったのでしょう。

 人魚に悲恋のイメージがつきまとうのは、

セックスアピールに長ける人魚は、その実、思いやりに溢れた愛情関係から

ほど遠い存在である、という認識によるものだと思います。

人間の男は、人魚に下半身を熱くさせることはあっても、

心が熱くなることはないのだ、と。

 

 ひどい話です。

女の人魚が、男の人間を片っ端から海へ引きずり込むのも頷けます。

 一体どこの世界に、好きになった男とセックスだけしたい女がいるものか。

本当にほしい「まごころ」だけは、他の女のためにとっておいている男に

願うのは、「愛の再来」ではなく「身の破滅」でしょう。

 

 不吉な人魚のモチーフがあしらわれた、狂気の物語。

 ぜひ一度、お試しくださいませ。

 

【映画のキーワード】

#ホラー #モノクロ #実話

 

 

 

ディズニー・アニメ映画「リトル・マーメイド」

Watch and you'll see Someday I'll be Part of your world

ディズニー・アニメ映画「リトル・マーメイド」

 

”どんなドレスを着ていかれようが、

 皇太子殿下のお気持ちはきまっていたのです。

書籍「もうひとつのアンデルセン童話」

斉藤洋 著

 

映画"The Little Mermaid"

1989

ジョン・マスカー/ロン・クレメンツ 監督

 

 人魚と言われて真っ先に思い浮かべるイメージは何ですか?

というより、誰ですか?

 もちろん、彼女ですよね。

ディズニー映画の第二黄金時代の先駆けとなった作品「リトル・マーメイド」、

その主人公である、アリエル。

赤い髪をなびかせて、緑色の鱗で覆われたひれを使って、

水中を泳ぐ彼女は、数あるディズニープリンセスの中でも人気者です。

単に一番購買意欲の高い世代が、子どもの頃に観ていた作品という

年代による後押しもあると思いますが、

ディズニープリンセス関連のグッズや他企業とのコラボ商品を見る限りでは

その人気はトップクラスです。

 

 コザクラも当然、アリエルが大好きです……が、

アリエルと「リトル・マーメイド」をアンデルセンの「人魚姫」とは

完全に別物だと思っています。

赤の他人レベル。

アンデルセンの「人魚姫」をイメージして、

赤髪のチャーミングなアリエルはでてきません。

金髪で幸薄そうな、個人的にコザクラのストライクゾーンど真ん中の

線の細そうな人魚を、つい想像してしまいます。

 それもその筈。

アンデルセンの「人魚姫」が、キリスト教的救済があったとしても悲恋であるのに、

「リトル・マーメイド」は、アメリカンドリーム的大団円を迎える

幸せな恋の物語なのです。

人魚姫の恋は叶い、泡になって消えたりしないなら、これはもう別物です。

派生作品か二次創作の境地です。

 しかし「リトル・マーメイド」に限らず、「人魚姫」を原作とし、

数々の作品が今も昔も創作されてきました。

ここに、原作の味わい深さとたぐいまれな魅力性を感じずにはいられません。

優れた派生作品を生む「人魚姫」は、

それ自体が想像の余地を残した、それでいて印象深い作品なのです。

 

 今回ご紹介します書籍も、「人魚姫」派生作品の一種を含んでいます。

児童文学「ルドルフとイッパイアッテナ」でお馴染みの斉藤洋

「もうひとつのアンデルセン童話」です。

2021年10月に初版ということで、出版されてからまだ1年も経っておりません。

知らない方も多いと思いますので、

この機会にぜひ楽しんでいただきたいと思い、紹介させていただきました。

 語り部である「わたし」が千葉県の「ふなばしアンデルセン公園」で

休んでいると、3人の訪問者が代わる代わるやって来ます。

そして彼らの語る物語は、よく知るアンデルセン童話とは少し異なっていて――

――というストーリーです。

みにくいアヒルの子」「人魚姫」「はだかの王様

誰もが知っている3作品について、主役ではなく脇役の語り手たちが、

「あの物語は、事実をゆがめて伝えられています」と

真実の物語を伝える、という形式で書かれています。

 「人魚姫」の場合には、隣国のお姫様に仕える侍女:クリスチアーネが

国の宝を狙ってお姫様になりすました人魚を殺し、難を逃れた、という

ちょっとびっくりするくらいサスペンスな話に仕立て上げられています。

元のお話が人魚姫の視点が描かれているため、

派生作品となると俄然、主張が強くなるのが脇役というものです。

 ここでは人魚が人間を食い物にする化け物とされており、

愛や恋ではなく、王国の財宝目当てで王子様に近づいています。

アンデルセン童話以外の昔話や寓話の中では、

人魚は美しい歌声で人間を虜にして、時に嵐を呼ぶ恐ろしい生き物と

されることがあります。

この物語中での人魚は、そういった面も持ち合わせているのでしょう。

 

 視点が変われば物語も変わる、というのはどの作品にも言えることです。

よく知っている物語でも、主役を誰にするかで結末のハッピー/アンハッピーは

たやすくひっくり返ってしまいます。

 たまには違った側面から「人魚姫」を楽しんでみてはいかがでしょうか?

きっと、新しい発見があると思います。

 

【映画のキーワード】

#ディズニー #童話 #アンダー・ザ・シー