映画「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」
”でも、ときどきアザラシ女房は寂しそうにみえた。
心に重くのしかかるものがあるようだった。
夢見るような表情をよく浮かべて、海を何時間も見つめていたものだ。
子どもたちには、島の誰も聞いたことのない、不思議な歌をたくさん教えた。”
書籍「人魚と結婚した男 オークニー諸島民話集」
トム・ミュア 著
東浦義男・三村美智子 訳
映画"Song of the Sea"
2014年
トム・ムーア 監督
――歌が、すっごくいいんですよ、この映画は。
タイトルに入っていますが、「海の歌」――英語版なら"Song Of The Sea"
アイルランド語版なら"Amhran Na Farraige"――これが劇中歌に使われてまして、
主人公:ベンの母親役の声優を務めたリサ・ハニガンが歌っています。
オリジナル・サウンドトラックが、Amazonから有料ダウンロードできます。
……が、1曲丸々視聴できました。
どういうことなの…………。
Amazonの視聴って、昔は途中までで切れたと思うんですけど、
いつの間にか1曲聞けるようになっていたの?
コザクラがこの曲をダウンロードした数年前とは、世の中が変わっている……。
浦島太郎の気分は横に置いておいて……、この映画にはセルキーが登場します。
引用した書籍では、「アザラシ人間(セルキー・フォーク)」の名で
紹介されるこの生き物は、スコットランド周辺の民話に度々登場しており、
アザラシの皮を脱ぎ着することで、水中と陸の上、
二つの世界を行き来する存在として、物語中で活躍しています。
普段はアザラシの姿で過ごす彼らは、時折皮を脱いで陸に上がり、
人間の姿で踊り、さらには人間と恋に落ちます。
セルキーは男女ともに美しい姿をしているとされ、
恋を告げられた人間は、彼らの愛を受け入れますが、
住む世界が異なるため、長く一緒にいることはできません。
伝承はいくつかありますが、よく見られる型の一つにあるのが、
人間の男が皮を隠してセルキーの退路を断ち、嫁に迎え、子どもをもうけるも、
数年の後にセルキーは皮を見つけて海へと帰ってしまう、というもの。
皆さんご存じの日本の民話「羽衣伝説」の類型とされ、
異類婚姻譚の常として、セルキーの物語は、悲恋に終わる恋物語が多いです。
そしてこの映画でも、登場するセルキーの一人は、
愛する人との別れを避けることはできませんでした。
映画では、ベンの妹:シアーシャの毛皮は隠されていました。
彼女がセルキーであった母親の血を濃く継いでおり、
母親同様にセルキーとして海に生きる道があることを知っていた父親が、
娘を海へはやるまい、と鍵付きの箱に入れて、
クローゼットの奥にしまっていたのです。
一方、お兄ちゃんのベンは、妹の誕生とともに、
大好きだったお母さんがいなくなってしまったこともあり、
シアーシャには意地悪をしたり、きつくあたったりします。
それでも冒険の果てでは、自分の今までの振る舞いを振り返り、
シアーシャと共に最後を迎える覚悟を決めます。
そしてラストでは、人間の世界に残ったシアーシャと
兄妹らしく仲良くしているシーンが描かれ、物語は幕を閉じます。
セルキーならば避けては通れなかった「人間世界との別れ」も、
半分人間であるシアーシャならば、明るい結末へと導けます。
しかし、人間の姿を選んだシアーシャではありますが、
セルキーの姿は本当にかわいくて、もうセルキーにはならないのかと思うと
そこだけちょっぴり残念に思います。
真っ白なアザラシ姿もかわいいのですが、白いアザラシの毛皮を被った姿も、
身もだえするようなかわいさがあって、悶絶ものなのです。
ちょっとひょうきんな格好にみえなくもないですが、そこはそれ、
かわいい女の子が着ていると、「あらかわいい」となります。
かわいい映像と美しい歌声に癒やされたい時に、おすすめの映画です。
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