映画「リトル・ダンサー」
”バレエには男性の時代と女性の時代が交互に現れているようです。
(中略)
では現在は?といわれると珍しく男女のスターが拮抗する時代とも
いえるでしょうし、圧倒的なスターのいない時代ともいえるでしょう。”
書籍「ビジュアル版 バレエ・ヒストリー バレエ誕生からバレエ・リュスまで」
芳賀直子 著
映画"Billy Elliot"
2000年
スティーブン・ダルドリー 監督
残念ながらコザクラは未視聴なのですが、
いつか観てみたいと思っているバレエ作品の一つです。
チャイコフスキーが作曲した「三大(さんだい)バレエ」の一つ、
男性が白鳥に扮して踊ります。
映画のラストで、成長した主人公が登場し、
上記の演目を踊るのですが、演じるのはアダム・クーパー。
この方、元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルです。
プリンシパルとは、主役を踊るトップダンサーのこと。
現在は振付・演出の分野でも活躍され、ミュージカルにも多数出演されています。
かつて「女のやるものだ」と父親にバレエを否定された主人公:ビリーが、
生まれ故郷から遠く離れた首都ロンドンのバレエ団で
男ながらに主役の白鳥を踊る姿を映して、本作は幕を下ろします。
日本のバレエ人口は約40万人と言われ、
これ、世界的に見ても結構な人数です。
しかしその98%が女性で、
もう圧倒的に、女性の習い事としてのイメージが定着してしまっています。
もちろん、男女比がアンバランスなのは海外でも同じこと。
やっぱり女性が多く、バレエを習う男子は、
からかわれたりすることもあり、肩身が狭い思いをしているようです。
さらには、本作でほのめかされているように、
「ゲイ(同性愛者の男)がやっている」というイメージまでついてしまっています。
男の子を「男の子らしく」育てたいと考える、主人公の父親や兄が、
バレエをやりたいと言うビリーに反発するのは、
こういう背景があるからです。
ましてや物語の舞台は、イギリス北東の炭鉱町:ダーラム。
斜陽産業の炭鉱で生計を立てる人が中心の、
貧しい集落で暮らすビリーたちにとっては、
バレエをやっている男など見たことがなく、想像もつかない存在です。
当然、ビリーも最初はバレエとは縁の無い生活を送っていたわけですが、
そこに転機が訪れます。
普段は別の階でレッスンしていたバレエ教室が、
ビリーの通うボクシング教室の隣のフロアでレッスンをすることになり、
ビリーは、はじめて目にするバレエに近づいていきます。
ビリーのダンスは、見ていて本当に楽しいです。
思わず観ている観客の体も一緒に動いてしまう程、いきいきとした踊りです。
個人的に好きなのは、イライラが爆発したことを、踊って表現するシーン。
ディズニー映画なら、歌って踊ってミュージカルになるのでしょうが、
ビリーは表情と体とステップで、身の内から湧き上がる怒りを表します。
傍で見守る友人:マイケルが、足でリズムをとっているのですが、
観ているこちらも一緒にリズムをとってしまいます。
ストーリー上では、決してコミカルではなく、
むしろビリーからすれば深刻に悩み、怒り心頭なシーンなだけに、
悲劇が喜劇になるという逆転の笑いが、クスッと起きてしまうシーンです。
ビリーを演じたジェイミー・ベルは、6歳からバレエをはじめました。
映画出演時は、おそらく13~14歳。
女系親族はこぞってダンサーということで、ダンサー一家だったわけですが、
ここでもダンサーは女性が中心。
いやはや、これって結構根深い問題ですね。
ところで、今回引用した書籍によりますと、
バレエ発祥時点でのダンサーは、主に男性だったとされています。
「太陽王」と呼ばれるフランスのルイ14世は、大のバレエ好き。
彼の通称は、バレエ作品の中で「太陽の役」を踊ったことから
とられているそうです。
この方が熱中したおかげで、バレエはフランスで庇護され、
「5つの足のポジション」など、その基礎がつくられ、今日に続くわけです。
その後はマリー・カルゴが女性ダンサーの時代をつくり、
アンナ・パブロワがヨーロッパ以外の世界へバレエを持ち込み、
そして「伝説のダンサー」――ワツラフ・ニジンスキー――が誕生する……
……とまぁ、現在に続くわけです。
「バレエは女性の独壇場」なんて時代は、そう長くないかもしれません。
男性ダンサーの皆さん!
未来を見据えて、思いっきり跳んでください!
【映画のキーワード】
#青春 #ファミリー #同性愛者