映画「007/カジノ・ロワイヤル」
”自分が――このボンドが――何年も子供じみた鬼ごっこにうつつを
抜かしていたあいだに(そう、ル・シッフルのこの比喩はこれ以上ないほど
正しかった)、真の敵はボンド自身の目と鼻の先で、ひそやかに、冷静に、
英雄ぶることもなく仕事を進めていたのだ。”
書籍「007/カジノ・ロワイヤル」
白石朗 訳
映画"Casino Royale"
2006年
マーティン・キャンベル 監督
――あなたの「ジェームズ・ボンド」はどこから?
コザクラにとっては、ダニエル・クレイグ演じる6代目ジェームズ・ボンドです。
イギリスの諜報員としての経験から、
スパイ小説を書いた作家、イアン・フレミング。
彼の生み出した、「世界で一番名の知られたイギリスのスパイ」が
コードネーム:007(ダブルオーセブン)こと、ジェームズ・ボンドです。
1962年に、記念すべき映画化第1作目が公開されて以来、
主演を引き継ぎながら、25作品もの映画作品が作られてきました。
今回ご紹介する映画は、ボンドシリーズの中では第21作目にあたります。
しかし原作小説は、ジェームズ・ボンドがはじめて登場した第1作目なのです。
小説1作目を、映画を20本撮った後で映像化したという事実。
実は、1967年に小説1作目を原作とした映画が公開されているのですが、
なぜかこれがコメディ映画だったのです。
というわけで、2006年の映画は本来「リメイク作品」となるのですが、
ネット上の評判を見る限りでは、ボンドシリーズに1967年版は含まれない模様。
まァ、仕方が無いのかな?
個人的に「人生初の007」だったことから、
ダニエル・クレイグは、非常に愛着のある俳優さんです。
「推し」……とはちょっと違うのですが、「馴染み深い」みたいな感じ。
「地元に帰ってテレビをつけるとやっている、地方局の番組のキャスター」の
ような「観ていて安心感のある俳優」という立ち位置です。
ところがキャスト発表当時は、えらいブーイングの嵐だったそうです。
主に容姿(身長、髪色など)の面で、ボロクソに叩かれたらしく、
歴代ボンドが作り上げてきたキャラクター像が崩れるとして、
そりゃあもう凄い剣幕で騒がれまくったんだと。
ボンド役として当たった今となれば、やっかみも笑い話になりますが、
当時の俳優や制作陣は、さぞや胃が痛かったことと察せられます。
さて、前評判でギャアギャア言われた6代目ボンドの1作目が、
本作「カジノ・ロワイヤル」というわけですが、
これがもう、本当に好き。
原作小説も、大好き。
好きなポイントを挙げていると切りがないので、
極論を申し上げますと、これは「スパイになる」お話なんですよ。
だから、物語の主人公であるボンドは、映画の終盤間近まで、
「技術も判断も体術もピカイチだけど、ただの公務員」なんです。
それが、裏切りと出会いと別れの後で「一流になる」んです。
「プロフェッショナルになる」お話なんです。
いや、人殺しにプロフェッショナルもクソもあるかよ、という
倫理の問題は横に置いて、ストーリーの面白さに重点を置くと、
「主人公が困難を経て宝(一人前になること)を得る」という
極めて王道のストーリーになっているわけです。
もちろんここでは、ボンドは「もう誰も信じられない」という、
絶望に満ちた状態で物語(冒険の旅)を終えています。
恋人は死んだし、しかもその死んだ恋人のせいで、
自分の職場や愛する祖国は窮地に陥っています。
バラ色とは言い難い結末。
でも、望んだ通りの宝物を得て、
幸せな未来に続く結末に繋がる可能性もあった筈です。
どこかでボタンを掛け違えるように、何かがずれていたら、
今も恋人は彼の隣で微笑んでいたかもしれない。
ボンドの場合は、そうじゃなかった。
それでも、彼の人生は続き、彼は仕事から降りて、
別の――もっと安全な――仕事に就こうとはしませんでした。
決してハッピーエンドではないけれど、
ボンドが敵に背を向けることをせずに、前を向いて歩き続ける姿には、
何かしら明るいものを感じずにはいられないのです。
それを、希望と呼ぶにはちょっと大袈裟だけれども。
【映画のキーワード】
#アクション #スパイ #ポーカー