映画と本の感想ブログ「映画の本だな」

いつかディズニー映画を英語で観るために頑張るブログ。

映画「アナザー・カントリー」

I miss the cricket.

映画「アナザー・カントリー」

 

”閉鎖的なパブリック・スクールから追放された者(精神的な意味においても)は、

 最終的には自国を売るところにまで行き着くのである。

書籍「パブリックスクール

新井潤美 著

 

映画"Another Country"

1984

マレク・カニエフスカ 監督

 

 「イギリスの寄宿学校」と言われて、真っ先に思い浮かぶのは何ですか?

 コザクラは「ハリー・ポッター」シリーズに登場する、

架空の学校――ホグワーツ魔法魔術学校、を想像します。

全寮制、寮対抗試合、監督生……など、ファンタジー作品としての独自設定を

除いても、日本の学校の大部分とは大きく異なるシステムが見受けられ、

本をめくりながら、イギリスという国自体が魔法の国に思えて

ドキドキしたことを覚えています。

さらに、物語に登場する架空のスポーツ競技への熱の入れようが、

イギリスのパブリック・スクールでの文武両道――熱心なスポーツ教育に

類似したものでもある、と知り、ますます両者の境界は曖昧になっていきました。

 映画にも登場するクリケットは、実にイギリス的で――プレーの間に

お茶の時間をとり、木陰にシートを広げて、ティーポットからお茶を飲むなど

――もっと言えば、イギリス貴族的なスポーツです。

 

 今回取り上げた岩波新書の書籍では、パブリック・スクールのイメージが

イギリスの文化の一つとして取り上げられてきた歴史を、

今日までに展開されてきた小説や映画などの創作物を通して、紹介しています。

 ここでご紹介する映画も、もちろん取り上げられています。

1981年に初演された舞台作品を、1984年に映画化したのが本作で、

全寮制男子校を舞台に、同性愛者と共産主義者を登場させ、

彼らが孤立する様を描いています。

 

 物語はモスクワから始まります。

年老いた男にインタビューする若いアメリカ人女性。

彼女は男に「なぜ祖国イギリスを裏切ったのか?」と質問を投げかけます。

 場面は男の回想に移り、画面に映し出されるのは

燕尾服にシルクハット姿の若い――幼い――男の子たちの群衆です。

ここは全寮制男子高校。

貴族や王室関係者の子息が通う、由緒正しい名門学校なのです。

 しかし、当時は見つかれば放校処分だった同性愛を原因として、

生徒の一人が自殺してしまいます。

学校内では、風紀の乱れを正そう、という流れが起こりますが、

主人公:ガイ・ベネットは、自身の性的嗜好のままに

別の寮の男子生徒と恋仲になります。

けれでも無分別な振る舞いが、ガイの学校における地位を脅かし、

ひいては彼の将来の出世にも暗い影を落とします。

 場面はモスクワの一室に戻り、かつてはバラ色の頬をしていたガイが、

年老いた姿でインタビュアーに向かっています。

そしてラストシーン、帰国の希望や懐かしい人との面会について尋ねられ、

ガイは「クリケットがしたい」と呟くように答えます。

 

 皮肉ですよね、これ。

パブリック・スクールという閉塞的な世界で淘汰され、

表社会でのし上がることを諦め、共産主義に転向した一人の男が晩年、

祖国への想いを語る時に、

パブリック・スクールの思い出を引っ張り出してしまう、という皮肉です。

 ガイは、パブリック・スクールでの、

同性愛を理由にした体罰や侮辱への復讐心から、

祖国を裏切り、捨て去ることを決意した、と読み取れます。

そのガイが、自分の人生の一大転機であり、忌まわしい記憶であるだろう、

パブリック・スクールでの日々を、年老いて、外国に亡命した現在も

捨てられないでいる。

 最早、喜劇ですよ。

悲しい喜劇。

 ロシアの共産主義政権がその後辿った道を思えば、

ガイの姿はより一段と滑稽で、物悲しいものに見えてきます。

彼は所詮、道化者(ピエロ)だったのか。

 

 イギリス文化を語る上では欠かせない、

パブリック・スクールという箱庭的教育機関

そこで育まれる政治的野心と、友情と愛情と性への目覚め。

 そして、そこで敗れ去った敗北者たちに思いを馳せて、

この映画をおすすめします。

 

【映画のキーワード】

#歴史 #体罰 #イートン・カレッジ