映画「4分間のピアニスト」
映画"Vier Minuten"
2007年
クリス・クラウス 監督
ラストのピアノ演奏シーンで有名な、ドイツの映画。
ピアノの鍵盤だけでなく、台を叩き、弦を直接弾き、足でリズムをとる。
その奏法は、およそ「ピアノの演奏」と聞いて想像する姿とはかけ離れており、
観客を困惑させます。
しかし、破壊的なスタイルの演奏方法とは裏腹に、
奏でられる音楽にはまとまりがあり、一つの曲として違和感なく認識されます。
激情がほとばしるかのような演奏をしながらも、
「雑音」にならず、「音楽」として観客の耳に届きます。
主人公:ジェニーの破滅的な性格を表すかのような、独特の演奏と音楽です。
優れた才能を持ちながらも、その才能が呼び寄せたようなトラウマを抱え、
心と体が縛り付けられている彼女の、運命の数奇さを感じます。
きっと彼女は、ピアノによって癒やされ、同時に、
ピアノに触れることでトラウマを甦らせ、傷つき続けているのだと思いました。
タイトルの「4分間」とは、コンクールに出場して、
壇上で演奏する時間のことを指しています。
本来、刑務所にいる筈のジェニーを連れ出し、
コンクールに出場させたクリューガー女史は、
刑務所内でピアノ講師をしていました。
ジェニーのピアノの才能に気づいたクリューガー女史は、
激昂しやすいジェニーの性格を非難します。
「破滅するのは簡単。
どうしてなの?
それだけの才能をなぜドブに捨てるの」
クリューガー女史は第二次世界大戦中に、
愛する女性(同性愛者のため)をナチス・ドイツ兵に処刑されるという、
残酷な別れを経験していました。
若い彼女にとって、この出来事は永遠に癒えぬ傷となって心に残り、
おそらく誰にも打ち明けたことはありませんでした。
しかし、才能あるピアニストでありながら、
自分も相手も粗雑に扱うジェニーに向き合うことで、
半ば無理矢理、その過去は暴かれます。
そして最後には、自分からジェニーに過去の傷を開示することになったのです。
4分間の演奏。
そして、それが終わった後の、奏者のお辞儀。
祖母と孫ほどにも歳が離れた2人の女性の、言葉を介さない会話を、
どうぞお楽しみくださいませ。