映画「BFG: ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」
”わしは変わり者のオ・ヤサシ巨人だよ。
この巨人国広しといえども、ニンゲンマメを食ったことがないのは、
このわし――オ・ヤサシ巨人、ただ一人だろうよ。”
書籍「オ・ヤサシ巨人BFG」
ロアルド・ダール 著
中村妙子 訳
映画"The BFG"
2016年
人食いのモンスターが登場する子ども向けファンタジーと言うと、
トミー・ウンゲラーの絵本「ゼラルダと人喰い鬼」など
怖くて不思議でブラック・ユーモアに溢れた作品が思い浮かびます。
今回取り上げる映画及び原作本に登場する人食いモンスターは、
鬼ではなく、巨人。
それも、「大きいお友達の巨人さん」なのです。
原作は、発想・言葉遣い・オチの付け方、どれをとっても奇才天才の仕事ぶり。
実は皆のトラウマメーカーとして、子どもの心に深く長い傷を残すことで
有名(?)なロアルド・ダールの1作です。
ロアルド・ダールはノルウェーの両親のもと、イギリスで生まれ育ちました。
イギリス空軍の戦闘機パイロットとして第二次世界大戦で従軍し、
撃墜され、エジプトの砂漠に不時着。
長く生死の境をさ迷いましたが、なんとか生還しました。
戦後、この時の経験をもとにした作品で作家デビューします。
人生、どこでどんなきっかけを拾うか、わかったもんじゃありませんねぇ。
そういえば、作家のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリも
飛行記録に挑戦中にサハラ砂漠に不時着し、その経験から名作を生み出しています。
そう、かの有名な「星の王子さま」です。
さて、舞台はロンドン。 それも孤児院。
ディケンズの影響か、ロンドンの孤児院ほど
惨めで残酷な場所は無いように思えます。
しかし同時に、一定数の反骨精神溢れる子どもたちを、
創作世界上で世に送り出してきたことも事実です。
そんなわけで、本作の主人公:ソフィーも
ロンドンの孤児院に相応しい性質を兼ね備えております。
巨人に捕まった彼女は、会話を繋いでなんとか生き延びようと
頭を回転させます。
恐怖で震えて言葉をなくすのではなく、とにかく喋って、
その間に知恵を働かせるのです。
うーん。
ロアルド・ダール作品の主人公陣の一筋縄ではいかないこの感じ、
個人的には凄く魅力的です。
優等生でもなければいい子ちゃんでもない。
他人の失敗を笑い、いじめっ子をいじめ返すこのタフネスさに、
実にイギリス的なウィット(即座に働く知恵、とんち)を感じます。
原文を読んだことはないのですが、原文ではさぞ様々な韻を踏み、
言葉を駆使して言語で遊びまくっていることだろう、と推察しています。
日本語訳がこれほど――過剰過ぎて、本筋が一瞬飛んでしまうほどに――
言葉遣いに神経をつかっていることから、翻訳家の皆さんの苦労が偲ばれます。
……ただ、非常に残念なことですが、
言葉遊びは本の上でこそ楽しいものです。
映像化する時は、実際の文章を見るのではなく、台詞の中で聞くことになります。
相性……悪いんですよねぇ……。
映画は映画として楽しむとして、やっぱり本で楽しむ以上の楽しみ方は
ないよな、とこの作品で改めて思いました。
しかし、映像化されて「素敵!」と思ったシーンがあります。
それは、優しい巨人:BFGとソフィーが、夢の国へ向かうシーン。
大きな池に飛び込むと、水面に映った風景の中に、BFGの姿が映ります。
勇気をだしてソフィーも続きます。
池に飛び込むと、重力に逆らって体がぐるり!
目を開けると、先程までと同じ風景の中に立っていました。
いえ、正しく言うと違います。
ここは夢の国。
その証拠に、辺りには様々な色をきらめかせながら宙を飛ぶ、
「夢」が実体化しているではありませんか!
この映像美は、映画ならでは。
スピルバーグ監督の手腕を拝見できます。
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