映画「LIFE!」
“おれがときどき考えごとをするの、いままで気がつかなかったのかい?”
書籍「ニューヨーカー短篇集Ⅰ」
ジェームズ・サーバー 著
鳴海四郎 訳
映画"The Secret Life of Walter Mitty"
2013年
ベン・スティラー 監督
前知識無しで映画館へ行った時、ウォルターの妄想癖を見てびっくりしました。
「えっ、これコザクラのことじゃん」って。
――どうもこんにちは。
四六時中、今ここじゃない場所で今よりもっと美しい自分が
爆発を免れたり悪の組織と抗争を繰り広げている場面を妄想しているコザクラです。
病名があるならそれだと思います。
通院するまでもなく患者。ハハッ――
それはさておき、原作のあまりの短さにもびっくりしました。
5分もあれば読めてしまうこの短編作品は、
今回ご紹介する映画「LIFE!」の前に一度映画化されており、
そちらも今作同様オリジナルストーリーを展開させています。
一連の作品は、日常生活で五感がキャッチした情報から
想像を膨らませてできた空想と、
現実とを行き来している男:ウォルター・ミティを主人公としています。
このウォルターという男、四六時中――本当に四六時中!
角を曲がればそのまま別世界へと歩いて行ってしまう具合に、
一種病的なまでに現実逃避しており、周囲を困惑させるほどです。
自分も妄想にふけると地に足がつかなくなる自覚があるので
ウォルターの妄想癖には親近感がわいてしまうのですが、
第三者からすれば「てめえどこに目ェつけてんだ」案件。
頭上を飛び去る航空機の音や、他人が口にした人物名、雑誌の見出しなど
ありとあらゆるものが妄想の引き金となりえます。
映画の分類にファンタジーが含まれているのは上記の妄想が原因です。
さて、今作の舞台は雑誌「LIFE」の編集部です。
写真部門で働くウォルターの恋、リストラ、家族の転居といった
プライベートな事柄を交えつつ、業務上のアクシデントを解決するために
空想ではなく現実の冒険に出かける――といったストーリーです。
劇中のアイスランドの景色が美しく、さみしくなるくらい人の気配がない。
連絡のとれない写真家:ショーンを追って訪れたグリーンランド・
……というかほぼ無い場所なので、日常とのギャップが半端なく大きいのです。
編集部の所在地が、人と車のひしめき合う大都会の代名詞のような
ニューヨークであることを差し引いても、ウォルターの空想の世界なんて
目じゃないくらい、圧倒的なスケールでもって非日常感をかもしだしています。
ようやっとショーンを捕まえたヒマラヤでも、人の気配が……ある。
結構人がいるんですね。ガイドさんとか。
ショーンは目当てのユキヒョウをカメラで捉えても撮影しませんでした。
何時間も雪山で撮影のチャンスをうかがっていただろうショーンに、
なぜ撮らないのかと理由を尋ねるウォルター。
ショーンは「自分が好きな時間をカメラに邪魔されたくないから」と答えました。
だから時々カメラから離れてその時間をただ楽しむのだ、と。
――今を楽しむ
この言葉を受けてウォルターは言葉を返しませんでした。
驚いている風にも、言葉の意味を受け取ろうと舌の上で転がしている風にも
見受けられます。
映画序盤では頻繁だったウォルターの妄想は、複数国を訪問して冒険の
数々を乗り越える内にすっかり影をひそめていきます。
妄想癖があること、そして空想の翼を広げることは何も悪いことではありません。
誰だって大なり小なりお世話になっているはずです。
ウォルターがシェリルの歌で勇気づけられてヘリコプターに飛び乗ったように。
彼の中の「自分の力を信じたい気持ち」が
良いイメージ(シェリル)として現れ出て、自分を応援したように。
でもウォルターの場合、イメージの力で現実逃避していたことも事実です。
父親の死をはじめとする受け入れがたい現実と折り合いをつけていくには、
彼にとって必要なものだったと思うのです。
目の前の物事を、相手を、時間を大切に思って生きる――
それがひいては、自分の人生を大切にするってことなんでしょうね。
【映画のキーワード】
#コメディ #アドベンチャー #臆病者の主人公