映画と本の感想ブログ「映画の本だな」

いつかディズニー映画を英語で観るために頑張るブログ。

映画「セブン」

I just don't think I can continue to live in a place that embraces and nurtures apathy as if it was virtue.

映画「セブン」

 

”痛悔は非常に悲しくて苦しくなければなりません。

 そうすると、神はその人にはっきりと慈悲をお与えになるのです。”

書籍「カンタベリー物語」

ジェフリー・チョーサー 著

笹本長敬 訳

 

映画"SE7EN"

1995

デヴィッド・フィンチャー 監督

 

 痛悔(つうかい)とは、キリスト教カトリックの用語で心から罪を悔いることです。

映画の中では「神を信じずとも悔いること」と説明されています。

 大都市を舞台に連続する猟奇的殺人事件。

主人公が一人、リタイアまで一週間の老練刑事:サマセットは、

犯人が被害者たちに痛悔を強いたと推理します。

着任したばかりの若手刑事:ミルズはそれを聞いて、

犯人の思考回路が理解できないと言いたげな反応です。

 殺害という手段で被害者たちに痛悔を強要してきた犯人を追う、

対照的なコンビのたった7日の事件簿と

凄惨な7つの殺人事件の物語が、この映画「セブン」です。

 

 殺人現場に残された犯人からのメッセージから、

犯行動機が本にあると踏んだ2人は、贖罪に関連する書籍を読み漁ります。

ダンテの「神曲」(生きたまま冥界巡りをした人のお話です)と一緒に2人が

読んでいたのが、冒頭で引用したチョーサーの「カンタベリー物語」です。

 このお話は巡礼の旅の途中、同じ宿をとった23人が1人ずつ話をする、という

オムニバス形式の物語集です。

詩的な文章と訳注の多さ、

そして何より二段構成で本文が470ページを超す大長編のため、

今回は序文と映画に関わるお話単品のみを読みました。

それでも長く、さらに宗教用語のオンパレードでしたので、

無学のコザクラにとっては、かなりしんどい読書時間となりました。

無心になって文字を追いかけますが、全然頭に入ってこない。

 映画と関わりがあるのは一番最後の話し手であった「教区主任司祭の話」で、

その中身は寓話や実話ではなく説教(宗教の教えをやさしく伝えること)です。

キリスト教の贖罪についての説明と、あらゆる罪の源泉とされる7つの大罪

具体例と罪のあがない方について細かく描写しています。

 犯人は7つの大罪――高慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、大食、肉欲――の

それぞれにおいて、その罪に相応しいと思った者たちに

それを象徴するような死因を強制的に与え、死に追いやります。

それもかなりむごいやり方を選び、苦しみを長引かせていました。

 犯人は、被害者たちは死んで当然の存在だったと断言し、

その上で本当に罪深いのは、彼らに関心を払わず野放しにしてきた

周囲の人々だと言います。

一見何の罪とも縁のなさそうな、ふつうのくらしを送るふつうの人々こそ、

罪を認め、悔いるべきだと主張するのです。

悔い改めるべき罪を無視し続けてきた人々への警鐘として

一連の殺人事件を起こし、劇的な結末で人々の記憶に残り、

この問題を想起し続けることが狙いだったのです。

 計画的な犯行とどこまでも冷静な犯人の態度からは、今の世の中に対する失望が

感じられ、近しい思いからリタイアして田舎へ引っ越す予定だったサマセットは

犯人の動機に親近感を抱いたにちがいないだろうと思います。

警鐘を鳴らすことを選んだ犯人と、逃げ出すことを望んだサマセット。

主人公2人だけでなく、追う者と追われる者の対比も仕込まれた、

練り上げられたプロットで、あっという間の2時間でした。

 

 ところで映画ノベライズとして、(株)

 

 

 

より

アンソニー・ブルーノ著・棚橋志行訳の文庫本が出版されています。

映画の世界観を損なわない文体でこちらもおすすめです。

 ラストでサマセットがリタイアを撤回して

現場に残り続ける意思を表明する場面は、

むしろ小説の方がわかりやすいと感じました。

しかしヘミングウェイからの引用があった映画の方が

サマセットの性に合っているとも感じるので、

映画とノベライズの両方で補完するとより深くこの作品を味わえると思います。

 

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#サスペンス #クライム #ベテランと若者