映画「パンズ・ラビリンス」
映画"El laberinto del fauno"
2006年
ギレルモ・デル・トロ 監督
スペイン内戦後の混乱した世の中。
父を亡くし、再婚相手の子をお腹に宿した母と2人で、
新しい父の元へ身を寄せることとなった少女。
森の中でのゲリラ戦。
冷酷な軍人たる継父。
お産に苦しむ母親。
周囲の緊張が高まる中、少女の心は空想の世界へと羽ばたいて――
――そして、帰ってこなかった。
はじめて観た時の感動を忘れることができません。
こんな映画は他にはない、と断言できます。
鬼才:ギレルモ・デル・トロの珠玉の1作、「パンズ・ラビリンス」。
題名のパンズ・ラビリンスは、「牧神パンの迷宮」を意味しています。
パンとは山羊の角を持つ男神で、ギリシア神話では羊飼いの神とされています。
映画では主人公:オフェリアを異界へ誘う導き手であり、
神よりは精霊に近い雰囲気で、その造詣は悪魔を感じさせるところがあります。
作中に登場する、おとぎ話を思わせる異界の者たちの造詣は、
パンに限らず皆どこか陰を感じさせ、羽根の生えた裸の妖精ひとつとっても
どこかしらグロテスクで生々しい存在です。
さらに本作は、政変による混乱で一般市民が銃を持って山に逃げ込み、
ゲリラ戦を行っているただ中へとやってきた少女を主人公としています。
攻防・負傷・自白強要・流血・殺害シーンといった戦争映画さながらの
心臓に悪いシーンが続きます。
そして、救いはあるように見えるけど、絶望に包まれる結末を迎えます。
ラストシーンについては諸説あるようですが、
コザクラは異世界は存在しない、と考えています。
母親と同じ顔の月の女神が本当のお母さんだと考えるより、
オフェリアのお母さんを反映して月の女神のイメージをつくったと考える方が
自然だと思ったからです。
登場しないので確認できませんが、隣に座る王様は、
おそらく亡くなった実の父親と同じ顔だと思われます。
最後に微笑むオフェリアの笑顔が悲しい。
劇中で奏でられる歌詞のない子守歌の余韻も切ない、忘れられない作品です。