映画と本の感想ブログ「映画の本だな」

いつかディズニー映画を英語で観るために頑張るブログ。

映画「博士と狂人」

I can because of you.

映画「博士と狂人」

 

”フランス語やスペイン語やイタリア語、そして諸外国の宮廷の言葉に取って

 かわりつつあった英語は、はるかによく理解される必要があり、

 正しい学び方ができなければならなかった。

 話され、書かれ、読まれている英語の目録をつくる必要があったのだ。”

書籍「博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話」

サイモン・ウィンチェスター 著

鈴木主税 訳

 

映画"The Professor and the Madman"

2019

P・B・シェムラン 監督

 

 博士と狂人――相反する2つの単語を並べたタイトルに惹かれました。

読み終わると体が重たく、椅子に沈み込むように感じられました。

これがノンフィクションなのだから、本当に人生は小説より奇なるものです。

 何かが違っていたら――それこそボタン1つのかけ違いで

全てがひっくり返っていたかもしれない。

歴史には往々にしてそういう絶妙なタイミングとポイントで支えられた

転換点があるように思われます。

1人の男性が人生の大半を自由のない場所で過ごして

見えない敵と戦い続けたことも、

1つの作品を完成させるためには必要不可欠だったのだと感じます。

しかし、どんなに素晴らしく思える歴史的偉業であったとしても、

その陰で彼や彼の凶行に倒れた人の苦しみを思うと、

体と心がしんどくなってしまいます。

 

 時代は19世紀、場所はイギリス。

ヨーロッパの中でも頭一つ飛び出たイギリスの影響力が、海を越えた植民地へと

広がっていき、1国の言語と思想が世界中に拡散していきました。

政治・経済の場で共通言語としての地位を得つつあった英語ですが、

残念ながら当時は英語の研究が他ヨーロッパ言語に比べて遅れておりました。

このままではいかん、と70年以上の歳月をかけて創られたのが、

OED――オックスフォード英語大辞典――でした。

 初版の時点で全12巻構成でしたが、現在は全20巻を超えており、

オンライン書籍が珍しくない現代ならともかく、2万ページに渡って

ちっちゃい字がずらずらと並んでいる様は、出版当時の印刷会社の苦労が偲ばれます。

実物未確認なのですが、拡大鏡で観るレベルの文字の小ささらしく、

ページ数の多さも相まって、オンライン版やCD-ROM版の利用が現在は主流とか。

コザクラはオンラインより紙の書籍派なのですが、ここまでいくと紙媒体で

手元に置くメリットがあまりないように感じますね。

通販サイトで商品検索して、表示された値段を二度見したんですけど、

よく考えればページ数とページあたりの文字数が桁違いですからね。

  他とは一線を画す辞典というわけです。

 

 タイトルとなっている2人の功績は素晴らしいものですが、

辞典が完成したのは2人の死後で、実際には膨大な数のボランティアを

含めた多くの人々の手により作成された辞典です。

実際に編集作業にあたるスタッフや無償で情報提供するボランティア、

そして彼らの家族たち――数え合わせれば英語を話す人々が一丸となって

取り組まなければ達成されなかったプロジェクトです。

これは世代を超えて託されたプロジェクトで、今も更新を続けています。

言語が永遠に完成されることのない、

変質を前提としたコミュニケーションツールである以上、

その事実はこれからも変わりません。

この先も改訂作業が続けられていくのかと思うと、本当に途方もない企画です。

 

 未来に思いをはせるのは人間の特権だと聞いたことがあります。

過去と現在の繋がりから未来を想像する力は、

人間が進化の過程で獲得した、他の生き物にはない能力だと。

自分1人の力ではどうにもできないことを皆で協力し、

さらに世代を超えて受け継いでいくというのは、

人間がそのような力を持っているからこそできることだと思います。

 さらに、考え方や性質が異なる個体を許容する「愛する力」を

持っているのが人間だったらよいな、とも思います。

生存の有利・不利とは関係なく、個体としての優劣とも関係なく、

様々な人生が許される集団としての人間社会に、明るい未来を見いだしました。

 

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#ミステリー #ドラマ #障害のある恋愛