映画と本の感想ブログ「映画の本だな」

いつかディズニー映画を英語で観るために頑張るブログ。

映画「ポーラー・エクスプレス」

At one time, most of my friends could hear the bell. But as years passed, it fell silent for all of them.

映画「ポーラー・エクスプレス


”ずいぶん昔、まだ子どものころ、クリスマス・イブの夜中に、

 ぼくは静かにベッドに横になっていた。

 シーツのこすれるこそりという音さえたてなかった。

 ゆっくりと静かに息をし、耳を済ませ、

 ある音が聞こえてくるのをじっと待っていた。

 サンタのそりの鈴の音が、ちりんちりんと鳴り響くのを。”

 書籍「急行『北極号』」

クリス・ヴァン・オールズバーグ 著

村上 春樹 訳

 

映画 " The Polar Express "

2004年

ロバート・ゼメキス 監督

 

 暖かなベッドの中で過ごすクリスマス・イヴ。

光と音の異変に気づいて窓の外を見れば、黒々とした一台の蒸気機関車の姿が。

乗客は皆、パジャマにスリッパ姿で頬を輝かせた子どもたち。

冬空に汽笛を響かせて一路、列車は北極点へ向かいます――

 

 クリスマスの絵本は多いけど、私が子ども時代にこの絵本と出会っていたら

きっとお気に入りになっていただろうな、と思わせる

オールズバーグさんの代表作「急行『北極号』」

子どもの頃には出会えなかったけど、

写実的なタッチの挿絵も胸躍るのにどこかリアルな空想世界たちも、

とても魅力的で年齢問わず大切な人に奨めたくなります。

 

 さて、問題は鈴です。

 到着した北極点はニンフたち(小っこい妖精)がサンタと一緒にクリスマスの

プレゼントを用意する工場が建ち並ぶ街でした。

列車で運ばれた子どもたちの中から1人が選ばれて、サンタから直接プレゼントを

贈られるのが、クリスマス・イヴのイベントです。

そして選ばれた主人公は、トナカイのそりに連なるたくさんの鈴の中の

1つがほしい、と願い、鈴を手に入れます。

 家に戻った主人公は鈴の音を聞いて、急行「北極号」での旅が

夢ではなかったことを知り、その証の鈴を妹にも聞かせます。

笑う子どもたち。

しかし両親に鈴の音は聞こえません。

そして時が経ち、鈴の音が聞こえていた主人公の妹も友だちも、

もう鈴の音を聞くことはありません。

大人になった主人公には、いまだに鈴の音が聞こえます。

 

 大人になっても主人公が鈴の音を聞いているなら、

鈴の音が聞こえなくなった妹たちは何が変わったのか。

おそらくクリスマスの奇跡、その象徴たるサンタの存在を信じる心を失ったから、

ということでしょう。

 映画だとこの辺りは、主人公を疑り深い性格に設定して、

急行「北極号」の旅を通じてサンタを信じる心を手に入れる、というストーリーに

仕立てているのでよりはっきりと描かれています。

もし子どもの頃の私がこの絵本を読んだら、

大人になってもサンタを信じていよう、と思ったことでしょう。

鈴の音が聞こえる大人に、自分もなりたい、と。

 

 でも大人になって思うのは、自分には鈴の音は聞こえないだろう、ということ。

それを悲しいと思わないことが、ちょっぴり寂しく感じられます。

子供のためのおとぎ話だったのだと納得していて、

当たり前に受け入れてしまえるのです。

 サンタさんが来るのを待って寝付けなかったのはいつのことだろう。

とんと思い出せません。

成長するにつれておとぎ話は私の生活からすっかり用がなくなったようで

すっかり別のイベントになってしまいました。

最早、チキンとケーキを食べる日となっています。

十五夜がろくに月も眺めずに団子を食べる日になりつつあるように。

 

 

 大人になり、あんなに楽しみに待ち望んでいたクリスマスの魔法が消えて、

そしてこの世の大多数の人は鈴を持ち合わせていません。

クリスマスの奇跡を信じることもないまま、行事として毎年巡ってくるだけ。

急行「北極号」に乗ることもなく、鈴を手に入れることもなく、

サンタを信じる心を持てないまま、私たちは日々を過ごしています。

 けれども絵本を開く時だけ思い出す、子どもの頃に信じていた

「サンタの存在する世界」

それは不思議に輝いて、悲しい思い出ではないのです。

ついに手に入らなかった鈴よりももっと、現実味のある証なのです。

私が昔、素敵な世界を信じていたことの。

 

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#アニメ #ファンタジー #家族で見られる

 

急行「北極号」

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ポーラー・エクスプレス [DVD]

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  • 発売日: 2015/11/18
  • メディア: DVD Audio